老いぼれの独り言

イメージ 1
老い先、限られた身である。
だんだん気持ちが焦り始めている。
今の内にやって置かなけば損をする。
だんだんさもしく浅ましいた年寄になつて行くのがよく分かる。
残余の気力を振り絞っての行状記である。
 
 
    主去りて 手綱残せし 年の暮れ
 
《使い古した此の愛用の手綱の主はもういない。
昨年の盛夏の頃、敢え無く十年と幾ばくかの年齢でこの世を去った。
本をただせば捨て犬の分際ではあったがわが家に逗留して丁度十年目にして、わたしたち皆んなの前から惜しまれつつ消えて逝ってしまった。
あれから五か月が過ぎ去らんとするのだが未だ名残惜しそうに愛犬の匂いの染み付いた手綱だけがぶら下がる。
寂しそうに年を越さんとしている。
この手綱だけは捨て難いのである。
愛惜の念を断ち切り難いのです。
寂寞感に浸ったまま其処からどうしても抜け切れない老いぼれドアホウなのです。 》     
 
イメージ 2
    陽だまりに 若菜すすぎし 農夫かな
 
《小春日に大根の収穫を思い立つ。一輪車を仕立て菜園へ赴く。
家内と二人だけの侘び世帯ゆえ三十本もあれば十分すぎる。
タクアン漬けの保存食を確保するのが慣わしとなった。
何とも糠みそ臭い、所帯染みた話ではないか。
泥を落すために高橋川の岸辺へ一輪車を運び入れる。
そして、一本一本束子 (たわし)にて洗い落とす。こびり付いた畑の土が小気味よく剥がれ純白の素肌を (あらわ)す。
ところが、足場の不安定さに加わえ腰を屈めての作業は正直 (つら)い。堪らなくきつい。
えらいことではあるが汗して働く事の尊さを思い知らせてくれる貴重なる一時なのである。》