老いぼれの独り言

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相も変わらず只ひたすら黙々と巻藁の前に立ち巻藁に向かって射放つ。
目の前にある大きな巻藁なら狙わなくても中る。
そもそも弓の世界では的を狙ってはいけないという哲理がある。
高邁で高尚すぎる教義なので未だ理解が伴わない。
巻藁なら別段狙わなくても中るには中るが目をつぶって射るわけにもゆかず薄目でじっと「会」を保ちつつ「離」を待っていると次第に巻藁がぼやけて視界から消えるのである。
この頃合いを見て馬手を開放してみるのです。
何となく弓を引いている感覚に陥る。
此れが弓の世界なのかという一種の錯覚に陥るときがある。
ところが、やはり駄目なのだ。
先輩諸士の射手が射放つ、的中音が辺りの静寂を突き破る。
また、射放つ、音もなく安土に刺さったのだろうか。
あるひは、大地に、垂れ幕にと異なった音が撥ね返ってくる。
その都度、微妙にわが心中が動く。
気にはしてはならぬと意識はするが、やはりどうしても微かにわが心が揺れ動く。
振幅度の大小は的中音の音質によって異なる。
わが視界からも聴覚からも隔離された「無の世界」とはほど遠い。
「無心」で射放つまでわたしは巻藁から解放されることはないだろう。
ヘリケルさんのような達人ですら巻藁修行を四か年に亘ってやり抜いたという。
ひょっとすれば、わたしは終生巻藁の前に立たねばならぬかも知れない。
それでもいい。
とにかく、安易な妥協だけはしたくはない。