老いぼれの居合稽古《14》

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両膝をよせ鯉口を切り柄頭で相手を攻め上げつつ序破急にて横一文字に抜き放つ、 此の一連の動作のなか右の脚を前に送って確と的確に鞘引きする。
 あの春先のアクシデントの後は此れすら覚束なかった。
 右足が床に引っかかり引き摺るようにしか踏み込めなかった。
 半年の経過で此の動作は辛うじて克服することが適うようになった。
 内心喜んでいる。
 次いで、振りかぶり真向斬り下ろすまでは何とか様にはなるのだが、血振りが駄目なのだ。
 出来ないのです。
 居合腰の体勢で勢いよく振り切れば刀の重量に耐えかねて体が前のめりにつんのめる。
 取り分け、左足の踏ん張る支えが不安定で腰が入らないのだ。
 幾度やっても此れが駄目なのだ。
 とうとう苦肉の策として左の足を深い撞木足と為し土踏まずで踏ん張る変則的スタイルを編み出してしまった。
 両足爪先が正対し左踵が少し上がる体勢がどうしても取り辛くなってしまったのだ。
 加齢と共に体を沈めながら納刀姿勢に入り両膝が音もなく軟着床いたすこともそろそろ難しくなってしまった。
顔の表情は極力平静を装うものの苦痛の程をまったく覆い隠すことがままならないのである。
両の膝頭が音もなく吸いつくような着床が求めらっる。
決して、甘い妥協を自分自身に対して許してはいけないのです。
 
 
 厳しき現実に直面し愈々おのれの限界が間近かに迫りつつある悲哀を実感せざるを得ないのです。