「獺祭」も知らないダサイ奴が此処にいる。
先日のこと、わたしには似つかわしくもない実に高貴で高尚なる趣味をお持ちの御宅を訪問した。
客間に案内されると其処には夥しい酒器の類いが壁面一杯に小奇麗に陳列されている。
中には人間国宝級の逸品が並びその数優に二百点を超える。
震度六以上の揺れにも対応できる落下防止の装置までもが万端整えれているではないか。
手捻りだと云って得意然と自作のぐい呑みを見せびらかせる此の自分が情けないくらいに惨めに思えて仕様がない。
このような名品を目の前にして一献かたむけてもさぞかし一向に酔いは廻らないだろうと独り想像を巡らせていたところ案の定これで「一杯やりましょう」と一升瓶がどんと出てきたのです。
ところが、何とお粗末にも「獺祭」の漢字が読めないし聞いた事もない銘柄ではないか。
またしても情けなく恥ずかしい思いにさせられたのです。
尤も其の際においては生憎運転中に付きとご辞退申した次第ではある。
今や日本一名高き日本酒として君臨するらしい。
この「獺祭」を知らないダサイ年寄りが此処にいるのです。
家に帰り、ヤケ酒でもやろうと以前大阪の嫁から貰った関屋醸造の「空 ( くう )」を箱から取り出してみれば何と其処からは「空」ならぬ「獺祭-磨き二割三分」
のホンマ物が出てきたではないか。
「空」の彼方から「カワウソが一匹」舞い降りたことになる。
わたしの意中を察しわたしを喜ばそうと何と手の込んだ取り計らいを為して呉れたものか。
その気持ちを率直に陶板に表現してみようと一気呵成に作り上げてみた。
少々自嘲気味に・・・