押入れの片隅から優勝カップが出てきた。
もちろん、此のわたしには縁遠きもので間違いなく息子の所有物だ。
押野・中署・寺町の三道場部内大会での優勝杯とあるが最早本人には無用の長物に過ぎぬことだろう。
三人の息子と孫二人が剣道に手を染めたはずなのに今やいずれも断念し剣の道から反れていってしまった。
辛うじて、孫娘が微かに繋ぎ止めてはいるがどうも風前の灯火のようで寂しい限りだ。
昭和の五十年代少年剣道が隆盛期に在った頃の干乾びた残飯のような代物に過ぎぬのだが不燃物にして処理するのも忍び難い。
待てよ、そうであるのなら処分する先に陶製に仕立てて見るのも面白かろうとふと思い立ったのです。
今以って未熟者メが挑戦するには大きな抵抗感があったが敢えて挑んでみることにした。
いずれにしろ、たたら作りと輪積み法と形つくり法が集大成された願ってもないテストケースだと思ったのです。
焼くときに密封される台形の中の空気を逃がすにはどうしたらよいか、また杯に備わる巨大な耳の部分をどう接着させるべきか、丸みと膨らみある曲線をどう表現すか随分いろいろと腐心いたしました。
土曜日に廻って來る窯当番の有り余る時間を有効に活用いたした次第です。
兎に角、悪戦苦闘の連続でした。
わたしには敢闘賞のようなものでした。