老いぼれの夕雲考≪131≫

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夕雲流剣術書     小出切一雲 誌(57)


 


無住心剣を極めた当代きっての剣客小出切一雲は剣術はもとより医術をはじめ古今東西の幅広い学術にも長けた傑物である。


同時に人を洞察する鋭い鑑識眼の持ち主でもあった。


文盲は今日では差別用語に当たるらしいが一雲はわが師夕雲を文盲の人として表わした。


わが師こそは二心なき真実の人として尊んだことになる


 


 


【身一つに心二つの有樣にて、時々刻々堺に依り物に應じて、平生の了簡と相違する人は、いか程博學たりとも皆意識學者の文學古事を覺えたる分にて、別にたのもしき事もなし、常住不變内外ともに一般に成就し、夢中とても今日に一毫もたがはず、常變も一同に落着して、臨終一息截斷のきわ迄も常にかわらぬやうに成たらば、たとへ文盲の人にても學は同意也、】


 


口語訳


身体が一つなのに心が二つあるように、間をおかずに引き続いて佳境にいり物事に応じて、平常のときの思慮分別と相違する人は、どれほど博学であろうとも、皆意識して学者の文章や故事来歴を覚えたような軽薄な人物に過ぎないのであります。


格別、頼もしき心強き事柄でもないのであります。


永遠に変わることなく、内にも外にも一様に願いや思いが成し遂げられ、熱中し我を忘れたにしろ今日において寸分の狂いのない、正常にも異変にも同じく一つに落ち着いて、臨終をむかえ正に息が途絶えて死ぬ間際までも、常と変わらぬようになれたならば、例え文盲の人であっても学者と変わらぬこととなるのです。