うらなりの記《75》

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その八 高橋家当主=利治家の人たち(2)
 
 父は決して、放蕩三昧なことをして身上を潰してしまうような人ではなかった。
 確かに日本酒の愛飲家ではあったが家庭を顧みない人では毛頭ない。
 にもかからわず、わが家は極貧のどん底にあった。
 少なくともこのわたしは、他人の物をかっぱらってまでしても空きっ腹を満たすことが敵わなかった。
 小学校の校医より栄養失調(不良)の烙印を押された身だ。
 父と母との間柄において、わが子にも口にできぬ何かの秘め事があったのかもしれない。
 恐らく、只ならぬ出費を強いられる世の不条理に追い立てられていたのだろう。
 そうだとすれば、父と母が不憫でしようがないのである。
 乳飲み子であった弟利治にしたら、知る由もない事だが一つ屋根の下で皆が耐え忍んだわけだ。